Blues before sunrise ジャズ初心者でも簡単にわかる戦前音楽解説シリーズ。

こんにちは。戦前ブルーススタンダードナンバー[Blues before sunrise]をジャズ初心者でも簡単にわかるように解説するコラムです。

時代は今からおよそ90年前、場所はアメリカのインディアナ州インディアナポリスです。

1932年、本曲はとある2人のブルーズマンにより録音(Vocalion records)されました。完全な12小節構成、ピアノとギターによる洗練されたアンサンブル、主要都市でのレコードセールスを視野に入れたラジオやツアーなどの活動も含めた、このようなブルースをポピュラー化する動き及び演奏スタイルは後に”アーバンブルース”と呼ばれました。

今回は先述の2人のブルーズマンを通して、本曲及びアーバンブルースの魅力について解説していきます。

1905年テネシー州ナッシュビルで誕生、インディアナポリスで華々しく活動し、30歳の誕生日を迎えた直後早世したピアノブルーズマン。彼の名前は”リロイ・カー”です。

シンガー、ソングライターとしての才能を開花させ、華やかで洗練された音楽スタイルは”クルーナー”と呼ばれ、後にナット・キング・コールやレイ・チャールズなどのアーティストに大きな影響を与えました。

代表曲[How Long, How Long Blues]を皮切りに[Midnight Hour Blues][Hurry DownSunshine]など、1928年から1935年までのたった7年間で最も人気のあるブルースヒットメーカーだったのです。

影響を受けた、あるいは楽曲をカバーしているミュージシャンとしてカウント・ベイシー、ジミー・ラッシング、ロバート・ジョンソン、、T-ボーンウォーカー、チャールズブラウン、エイモスミルバーン、ジミーウィザースプーン、レイ・チャールズ、ビッグ・ビル・ブルーンジー、ムーン・マリカン、チャンピオン・ジャック・デュプリー、ロニー・ドネガン、ロング・ジョン・バルドリー、メンフィス・スリム、バレル・ハウス・チャック、エルモア・ジェイムズ果てはエリック・クラプトンと枚挙にいとまがありません。

この存在自体が”ブルース界のバランスブレイカー”なこの男も、残念ながら私生活に恵まれず、アルコール依存症が原因で腎炎を患い30歳という若さで短い生涯を終えました。もし長生きしていたら…歴史にもしはありませんが、ピアノブルースの将来は様変わりしていたことは間違いないでしょう。

リロイ・カーが死を迎えるまでの激動の7年間、その傍らでギターを弾いていた相棒がいました。男の名は”フランシス・ヒルマン”スクラッパー”ブラックウェル”と言います。

1903年2月、ピードモントブルースの聖地サウスカロライナに生を受け、人生のほとんどをインディアナポリスで過ごしました。南部のダウンホームな味わいと、北部のジャジーに洗練されたマルチスタイルなギターは控えめに言って”チート”でした。

ちなみに彼の芸名はおばあちゃんからつけられたようで、燃えるような性格から”スクレーパー”と呼ばれていたことが由来だそうです。ナイスおばば。

父親はフィドルを演奏したということで、ブラックウェル少年も早くから音楽に興味を持ち、葉巻のケースにワイヤーを張って最初のギターもどき自作したり、ピアノを学んだり、時にはプロとして演奏したというので、早熟なことが伺えます。 

10代になると仕事をしながらプロ活動も行い、時にはシカゴまで演奏旅行もしていたそうですが、自分にはツアー生活は向かないと早々にツアー見切りをつけ、地元インディアナポリスで1962年59歳で他界するその日まで、演奏を続けました。

1920年代半ば頃カーと出会い、彼らは自分達の音楽を生産的な仕事にしようと計画をはじめました。二人はこう言いました。

『ゴトシーのー、ラーギャーが、カイターで、マルウモウケねー』

1928年、Vocalion Recordsからリリースされたカーのオリジナル曲[How Long, How Long Blues]のヒットで、アーバンブルースは夜明けを迎えました。彼らの持ち味である綿密さは、音楽的なアレンジだけでなく、計画的なレコードセールスの手法にも表れており、ローカルヒットを飛ばしたことで駆け出しの作家としてのキャリアをスタートさせます。

このデュオの話になると多作で早世したカーの話に終始しがちですが、既にブラックウェルも作曲の才能を開花させ[ココモブルース]という曲を自分名義で録音します。

後にこの曲は”ココモ・アーノルド”というブルーズマンによって[オールドココモブルース]としてカヴァーされ、これが後のロバートジョンソン[スウィートホームシカゴ]となります。ブラックウェルにおいても、作家としての能力はジューブンに怪物だったのです。

1928年から1935年かけてアメリカ中西部と南部をツアーでプロモーションをしながら、100曲以上を録音。人気ブルーズデュオとしての栄光を手にしたかに見えましたが、金の切れ目は縁の切れ目、カーからビジネス的に信用されていないことに不満を覚えていたブラックウェルはこう言いました。

『てめぇカー、調子に乗りやがって、やめてやるぅ!探さないでください。』

と叫ぶなり夕陽に向かって泣きながら走り出した…かどうかは謎ですが、ヒット作を連発する人気コンビ解消の危機に肝を冷やしたVocalionレーベルの担当者はこう言いました。

『まぁまぁ二人とも、そうカッカなさんな。ほーら、あの青空を見上げてごらん。僕ら人間の悩みなんてちっぽけに見えるだろう、な?』

と、二人がえ?なに?なに?と空を仰いでいる隙に、今後すべてのレコーディング契約において二人とも同等のクレジットと条件で仕事ができるよう契約内容を変更しました。この時代、経営側がブルーズマンの提示した条件や要望を聞き入れ、さらに共作によるクレジットという”レノン=マッカートニー”的なビジネスモデルを先駆けて実現させたことに驚きを隠せません。

現在では当たり前のようなことですが、当時の時代背景と、搾取されがちだったミュージシャンへの扱いを考えると、この取り決めは画期的でした。”アーバンブルース”はその都会派な音楽性だけでなく、ブルースミュージシャンの権利とビジネスのあり方にも切り込んでいたんですね。ぐぬぬ、すごい。

しかし、先行き良好順風満帆に見えたこのブルースデュオに突然の悲劇が訪れます。

カーとブラックウェルは1935年2月のレコーディングセッション中、支払い条件を不服として録音を中断しました。周囲の『まーたいつものですか?』という楽観的な様相を裏切るかのように、その2か月後大量の飲酒と腎炎により、カーは死を迎えます。

その訃報を聞いたブラックウェルはスタジオに戻り、亡きパートーナーのために[マイオールドパルブルース]を録音し追悼の意を捧げました。

ブラックウェルのメロディックでジャジーなギターと、カーの華やかでブルージーなピアノによる、ブルースによる新時代を駆け抜けたデュオの歴史は幕を閉じます。

カーの死後、ブラックウェルは他のピアノ奏者と幾度となくセッションをしましたが成功せず、やがてブラックウェルは表舞台から姿を消してしまいました。

その後のブラックウェルについて、こんなエピソードが残っています。

1950年代も終わる頃、世の中はロックンロールが席巻していました。アート・ローゼンバウムという演奏家であり民族研究者の卵である若者が、インディアナポリスに”本物のブルーズマン”がいるという情報を基に、現地を旅して回ったそうです。そして現地のある高齢の女性から、そのギタリストについて情報を得ることができました。

『ああ彼のことね、ブルースや讃美歌を演奏するギタリストよ。その音ときたら、あんたの髪の毛ぜーんぶ逆立っちゃうくらいすごいわよ』

ローゼンバウムはそのギタリストを連れてきてくれるという人をやっとのことで掴まえ、自らのギターを持参し待ち合わせ場所に駆けつけました。

『おい小僧、”鳥の餌”はあるか?』

待ち合わせ場所にいたのは初老の男性で、顔を合わせるなりローゼンバウムにこんな質問をぶつけたそうです。

『鳥が歌うなら、その鳥のために”鳥の餌”が必要だろ?』

鳥の餌?ローゼンバウムは返答に困っていると、初老の男性はこう言いました。

『鳥の餌ってのは”ビール”のことだよ!』

ハッとしたローゼンバウムは、言われるがままにビールを買う金を出しました。

初老の男性はローゼンバウムのギターを奪い取ると”この世の物とは思えない美しいブルース”を演奏し始めました。待ち合わせ場所に遅れてやってきた、初老の男性の友人はローゼンバウムにこう言いました。

『いまお前さんはスクラッパー・ブラックウェルに会うことが出来たんだ。良かったな。』

アーバンブルースのギターヒーローはそれから間もなく、インディアナポリスの路地で強盗に撃たれ、59歳で人生を終えました。それはローゼンバウムが、ブラックウェルのキャリアを再スタートさせるべく方々を走り回り準備を終えた直後のことでした。

アーバンブルース。激しく蠢いた1920~1930年代のアメリカ。ブルースの舞台はかつての農村から都会に住む人々へと移り変わって行きました。彼らが息づかせた”夜明け前のブルース”は、今日も街角のいたるところで、私たちのことを手ぐすね引いて待ち構えているようです。

以上でBlues before sunriseの解説を終わります。孤独のヒュードの演奏動画もありますので、キュイーンとご覧ください。

井上大地

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